名古屋高等裁判所金沢支部 昭和40年(う)4号 判決 1965年8月31日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用(但し、国選弁護人荒谷昇に支給した費用中昭和四〇年八月三日の公判期日に関する分を除く。)は、被告人の負担とする。
理由
<前略>
所論は、原判示各罪は、刑法第五四条第一項前段の一所為数法に該る場合であるから、右各罪に同法第四五条前段を適用して併合罪の加重をした原判決は法令の適用に誤があるというのである。
刑法上一所為数法か併合罪かを区別するため行為の個数を決定するには、ありのままに見た自然的行為の形態、個数のみにとらわれず、その行為を犯罪に問う法の趣旨を考え、犯罪構成要件としては自然的行為のいかなる部分がその犯罪を特徴づけその主眼をなす重要要素に該るかを評価した上、その重要要素の重なり合い如何を検討し、更に行為の個数の如何により差異を来すべき起訴の効力および判決の既判力の範囲をも考慮してなすべきものである。本件において、原判示各罪は、自然的事実としてはともに同一の運転行為にかかわるものではあるが、自動車の運転の機会に犯さるべき多種の態様の違反行為を多数規定してこれ等をそれぞれ独立の犯罪として処罰することとしている道路交通法の法意に徴すれば、自然的事実として原判示各罪に共通のかかわりを有する運転行為そのものは、構成要件的評価においては、追越しもしくは通行区分違反の各犯行を機会づける意味を有するにとどまり、当該各犯罪を特徴づけその主眼をなすものではなく、構成要件の重要要素をなすものは、自動車運転の機会に犯された追越しもしくは通行区分違反の事実そのものであると解するのが正当であり、従つて、原判示各罪には構成要件的評価における重要要素の重なり合いはなく、右各罪は、同一の運転の機会に事実上複合して行なわれた追越しと通行区分違反の別個の行為によるものと解することができ、かつ、本件における行為の個数をこのように解しても起訴の効力及び判決の既判力の範囲の点に何等不都合な結果を来すこともない。以上により、原判示各罪は、刑法第四五条前段の併合罪の関係にあると解するのが正当であつて、同法第五四条第一項前段を適用すべきものではないから、原判決の法令の適用は正当で論旨は採用することができない。<後略>(小山市次 斎藤寿 高橋正之)